原題:”魔剣”に、願いを……


RL:薄羽陽炎

キャスト−


 ハヤトがSSSを辞めてからしばらく経ったある日、レッドエリアに殺人が起きる。 それだけならば、日常のことで誰も気にも留めないが、殺人を行ったのは戦闘能力の一切持たない、日常用の”ドロイド”(人型ロボット)であった。それも、達人の如き動きで、人間を斬殺していくという、普通ならば考えられない事態である。たとえ、凄腕の〔ニューロ〕をもっても、街頭にいる”ドロイド”を強制的に操ることはできるが、〔カタナ〕のような、達人級の動きは不可能である。 そして、凶器は行方知れず……

 アンモニア・アベニューに、占い屋を開いている煌夜に、正体不明の客が訪れる。その男は、『あるエグゼクの使い』とだけ名乗り、煌夜に『最近、バサラが斬殺死体になる事態が起きている。 気を付けるように』と忠告し、その事態の情報を提供するならば、謝礼を約束し、立ち去る。

 ”朽ち果てた”『剣』を捨て、一人立ちの道を模索し始めたハヤトの”ポケットロン”に、コールが入る。相手は、行きつけのBARのママで、裏家業の仲介人を勤めている、デライドという女性である。 「仕事の口が有るんだけど……」という言葉が、電話越しに聞こえる。 クリス(貯金みたいなもの)の残高も乏しくなりつつあるハヤトに選択の余地はなかった。無論、彼女とは共に闘った仲。 よもや、黒い仕事は廻さないだろう。と判断し、商談をするために、彼女の店:ラスト・ナイトガーデンへ向かおうとする。
 と、そこにSSS時代の先輩、山本リョウジがフラリと尋ねてくる。ハヤトは商談に行くために同行を拒むが、「同席はしない」という理由で、無理矢理ハヤトの愛車”アストZSRU”に乗り込む。 実は、リョウジは無免許でヴィーグルを運転することが出来ないのであった。

 皆が行きつけにしているイエローエリアの「BAR:ラスト・ナイト・ガーデン」には煌夜がすでに来て、ジュースを飲んでいた。 リョウジは着くな否や、高い『外界』にモノを言わせ、ホンモノの日本酒を飲み始める。本当にこの人、仕事をしているのだろうか……?
 盛り上がっている片隅で、ハヤトは一人、タバコに火をつけデライドから依頼の内容を聞こうとするが、この店は禁煙であったため、危うく追い出されそうになる(このメンバーで喫煙者はハヤトだけである、現実と同じように、N◎VAでも喫煙者は肩身が狭いようです)。
 依頼内容は護衛、クライアントは今は明かせない。 守りべきモノは煌夜であった。 そして、もう一つ。煌夜を護衛しながら、『夢の島』にいる”ピーターパン”無風という人物に会うように……とのことである。
 依頼主が不定なのは怪しいが、守るべきモノが気心の知れた者であることと、懐が寂しいハヤトに断る理由はなかった。

 別時刻、イエローエリアをパトロールしていたリョウジは、”あからさま”な凶器(ドス黒い刀身をした、禍々しい形状をしたグレートソード)を携帯している不審人物を見つける。近づき、不審尋問をしようとした矢先、その対象は、通行人を斬殺する。愛用の”降魔刀”を抜き放ち、駆け寄るリョウジに大上段からの一刀が襲いかかる、禍々しき刃はリョウジの肉体を切り裂いた……。
 かろうじて致命傷を避けたリョウジの瞳に映ったのは、人ならぬ機械(ドロイド)の姿であった。無論、戦闘用に調整されたモノではなく、マネキン代わりにアーケードのショーウインドーに陳列されているような商業用ドロイドであった。 無論、商業用ドロイドに、”死の猟犬”と一部で恐れられるリョウジを傷つけられるほどの戦闘力は持ち合わせるはずもない。
 そこに、一発の銃声が響きわたる。偶然近くにいたハヤトが、戦場に駆けつけたのである。 肉体に傷を付けられたドロイドは、新たに現れた若造に向けて抜く手も見せぬ刺撃を放つ……だが、『剣』を捨てることにより、【カブト】の極致に至ったハヤトは一撃をかわし、即座に急所目がけての蹴りを放つ、水月(鳩尾)に打ち込まれた一撃は、常人ならば気絶する威力であったが、機械の肉体に急所は存在しなかった……。 そのハヤトが造った一瞬の隙に、〈修羅〉と化したリョウジが殺到し、ドロイドは一刀のもとに両断される。
 真っ向から両断されたドロイドの腕部は、それでも活動を停止せず、ビルの屋上へ向けて”剣”を放り投げようとする。 ハヤトは鍛え上げられた〈戦術〉眼で、即座に腕を打ち抜くが、”剣”は、まるで意志が在るかのようにビルの屋上へ向けて飛んでいく……、そしてハヤトは、屋上で”剣”を受け取った老人らしき人影を見た。 無論、二人は不審者が居たビルの屋上に向かうが、そこには誰の姿も見えなかった。 ハヤトは何も言わず、壊れたドロイドに歩み寄った……

 次の日、煌夜とハヤトは、「X」ランクの市民に唯一残された「ネバーランド:夢の島」にいた。初めて訪れる地に、紆余曲折こそあったが、”ピーターパン”無風を見つけだすことに成功する。その、”ピーターパン”の口から出たことは、先日煌夜が聞いた、事と同じく「夢の島」在住の【バサラ】や【マヤカシ】達が、謎の大剣によって、殺害されているという事件が多発しているという話を聞く。その話を聞いていたハヤトは先日、リョウジと共に見た暴走ドロイドが持っていた”不気味な剣”の話を持ち出す。
 無風は、おそらくその”剣”は同一、少なくとも関係は有ると述べるが、”剣”の詳細については解らなかった。

 その時、背後から、「ほっほっほ、若いの。 何かお困りのようだのぅ、この爺が卦を点てて進ぜようか……」という声がする。振り向くと、深蒼のローブに身を包んだ老人が立っている。気配もなく、背後をとった不審人物にハヤトは反射的に懐に手を入れるが、その手を無風が押さえて止める……。そして、無風は深々と老人に一礼をする。 ハヤトが視線を走らすと、煌夜も最高位の礼をとっていた。 この老人こそ、災厄前の世を知る数少ない賢人にして、N◎VAでも最高位の【マヤカシ】、”占い爺”であった。 ”爺”の気紛れは、煌夜の祈りと同調していたのであった。
 三人の話を聞いた”爺”は、一言述べた。
「それは、”意志を持った剣”なのではないかのぅ?」
”爺”の出した、ニューロデッキは、【カタナ】のカードが逆位置で置かれていた。
 しかし、”剣”自体が意志を持っていても、何故、ドロイドを動かせるのかが解らない。ハヤトは破壊されたドロイドを調べたが、このドロイドはオール・イン・ワン方式で、外部からウェブ回線で侵入は出来ない仕組みである。無論、不審なプログラムも見受けられなかった。いくら、達人級の【ニューロ】でも、侵入口がなければ、操作は不可能である。
 ハヤトのその言葉を受けて、”爺”は「もしかしたら、噂に聞く、【異端のバサラ】ではないかのぅ。 風聞に寄れば、人形を操る〈元力〉を持つ者もいると聞く。 その輩が関係しているのではないかな」

 こうして、【バサラ/マヤカシ】狩りに関わる”謎の剣”と、それに関係している不審な老人の調査が始まった。無風は、夢の島に残り、其処にいる人々を守ると言い、全面的な協力を約束してくれた。
 まず、ハヤトはかってのコネ(SSS)を使うことを思い立ち、謎の老人についてのデーターの照合をリョウジに依頼し、自分は煌夜の依頼主を洗うことにした。 調査した結果、この依頼主は、とある企業の【エグゼク】であり、自身も【バサラ】であることが判明、そして自分の財産を、【バサラ】【マヤカシ】擁護のために使っている慈善家であり、無風とも関係有る人物だと言うことが解り、二人は納得するのであった。

 そのころ、リョウジは特殊任務の指令を受けた。内容は、『N◎VA中で無差別殺人を行っている犯人の検挙、不可能な場合は消去』である。さっそく、リョウジは資料を調べ、被害者の情報をFEIR(フェア)に求める。その結果、被害者は、全て【バサラ/マヤカシ】のスタイルの顔を持っていた。 同じように、ハヤトに依頼された”老人”を、警察のデーターベースで調査するが、該当者は存在しなかった。つまり、彼は”公式にはN◎VAに存在しない”人物(Xランク市民)であった。
 このことを、ハヤトに知らせたリョウジは、二人と目的が同一であることに気づき、行動を共にすることにした。

 ”爺”の占いにより、「新たなる元力使い」という一条の光が現れた。三人はあらゆる〈コネ〉、〈社会〉的繋がりを駆使して調査を開始する。 ……しかし、そもそも”存在しない”者達の捜索は遅々として進まなかった。
 憔悴して、煌夜の占い部屋で一息を着いていたところ、差出人不明の〈謎のプレゼント〉が煌夜に届けられた。
その中身は、幾つかの地点に、赤丸のついた一枚の地図であった。
照合してみると、場所はRed−エリアのスラム地区、印の付けられた箇所は情報によると、いずれも”胡散臭い”噂の耐えない組織や、新興宗教であった。

 ハズレを繰り返しながら、一行はある団体をつきとめた。そこは、明らかに元力と思われる力をもった者達の集団らしい。中には、孤児や、貧民も多いらしい……。 
「あからさまに、怪しい」
そう思った一行は、Redエリアであることを良いことに、臨戦態勢で施設に踏み込む! ……しかし、中で見たものは、数十人の死傷者であった。
 ハヤトが息のある者に応急処置を施し、事情を聞く。 生き残った者達は黙りを決め込むが、煌夜は素直に事情を話し、説得を試みる。
 彼らは、一枚の名刺を差し出し、書かれた場所に行くようにだけ告げた……。

 指示された場所は、安アパートの集合団地であった。 名刺を見せた一行は、まとめ役と思われる女性の下に案内された。 煌夜の話を聞いた女性は、一行に真実を話す……。

 彼女を含め、ここに住んでいる人達は”六統十二元”と称される【バサラ】の枠から外れた、”新しき〈元力〉使い”だった。
 ただでさえ、【バサラ】は、大衆から特異な眼で見られる。 その上で、”新しき〈元力〉使い”は、唯一の理解者、同胞である【バサラ】達からも異端視される歴史を歩んできたのである。彼らの一部は、お互いに協力し合い、スラムの治安維持などを請け負いながら、この集合団地で細々と生活をしていた。
 かの”老人”は、迫害を加える【正当派バサラ】に復讐を志す『急進派』の代表で、今までの一連の行為は、その復讐が実行された証だという。
 そして、あの”剣”は、代償と引き替えに、絶大な力を誇る、意志を持った”妖刀”であることが判明する。 その力を振るう毎に、”代償”を必要とする為、”老人”は自ら”剣”をふるわず、〈元力〉で人形を操り、人形に代償を支払わせていたのだった。 しかし、真に”剣”の力を行使するためには、「人間が持つ必要がある」と、女性は言う。
 そして、”老人”の悲願は、”新しき〈元力〉使い”の台頭であり、その宣戦布告として、”最強のバサラ”と囁かれる、無風と、その一味の首を採ることが、最終目的だと女性は言う。
 衝撃の事実を知り、夢の島に戻ろうとする一行を、彼女は呼び止める。
「私も行く。 身内の始末は、自分でつけないとね」

 

 深夜、夢の島に煌々と灯りが点る。 それは、戦いに備えてハヤトがつけさせたものであった。 しかし、照明を設置しながら、ハヤトは(【バサラ】が相手だというのに、灯りを焚いても、しょうがないな)と、ふと思い苦笑した。
そして、イワサキ”高烏帽子”を被る。 ……それは、戦いが始まる合図となった。
 突然、数十人の人々が、夢の島に出没する。おそらく全員があの”老人”の同士の”新しき〈元力〉使い”だ。【バサラ】は、空間を〈転移〉する能力を有しているのだ。
 その内の一人は、禍々しき形状の”剣”を手にしている。 その中に、かの”老人”の姿は見られない……。
”新しき〈元力〉使い”の一味は叫び声を上げつつ、無風へと殺到する。 しかし、その先に待ちかまえていたのは、獲物を待ちかまえる、飢えた”猟犬”であった。 ”新しき〈元力〉使い”は、其奴の恐ろしさも知らずに手に持った獲物で、”太々しい笑み”を浮かべ立っている邪魔者を排除にかかる……。しかし、一撃を振るわせたのは、リョウジの〈正当防衛〉を肯定させるための演技であった。 振るわれる二本の”降魔刀”に、次々と切り伏せられていくばかりである……、とその時、”剣”を持った男が猛攻を加える、《死の舞踏》にも見えるこの斬撃を、リョウジは交わしきれない……、そこにハヤトが”クリスタル・ウォール”を構えて、飛び込む! 《難攻不落》とはこのことであり、【カブト】の防衛能力で防げぬ一撃は皆無なのである。
 鈍い衝撃が、ハヤトの左腕に感じる。華奢な外見とは裏腹の、凄腕の【カタナ】や鍛錬を重ねた【チャクラ】も顔負けの剛剣である。 だが、男は血を吹き、もがき来るしみ出す。 まるで、自分が斬られたかのように……。剣は、他者に死を与える代償として、使用者の死を求めたのである。だが、男は自らの《守護神》に助けを求め、もう一度、煌夜に向けて《死の演舞》を放つ!
 虚を突き襲いかかる剣風に、煌夜もハヤトも為す術はなかった……。首を両断されて、地に倒れる煌夜……。そこに、煌夜の《守護神》:小さき者達(妖精)が集い、新たな命を煌夜に宿す……。 男は、再び求められる代償を、《守護神》に救われる……。しかし、この男の守護神もついに力つきた……。
 その瞬間を見きり、リョウジが猛攻をかける! 制服の袖が破け、リーサル・アームズ”MDガイスト”が姿を見せる、両腕には既にトレードマークと化した”降魔刀”が握られている。 リョウジはニヤリと笑った……

 かって、男だったものが地面に倒れている。 全員の視線がそこに集中した瞬間を狙って走り寄る影がある!
あの”老人”だ、《不可視》で機を窺っていた老人は、”剣”を手に無風に躍りかかる。
(だれにも気付かれない)
 その瞬間、《天罰》の光が放たれる。 突然、ライトの光量が増大し、”老人”の姿が映し出されたのだ!
自らの命を代償に《死の舞踏》を舞う”老人”、しかし《難攻不落》の”盾”は三枚あるのだった。
「お前は、死刑だっ!!!」
《制裁》の言葉が放たれ、”老人”に”降魔刀”が突き刺さった……

 

 夢の島の大地に、”剣”が転がってる、無風は”剣”を手に取る。
『我が主人よ、 汝は、我に何を望む』
”剣”の問いに、無風は答えた。
「私は何も望まない。 ただ、お前の滅びを望むだけだ」

 その言葉に応じ、”剣”は、塵となってN◎VAから消え失せた……

 

 後日、煌夜の要請によって、【正当派バサラ】と【新しきバサラ】の会談がもたれた。今まで偏見と蔑視の眼で見ていたお互いだが、この事件を契機に、僅かずつではあるが、交流が持たれ始まるのだった……。

 

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