サタスペSS [リアル幼なじみがいる本田君の場合] チュンチュン 小鳥のさえずりが頭に響く (頭痛で頭が痛ぇ) 頭の中で鐘がガンガンと鳴っている 身体は鉛のように重い 本田アキラは中二病患者特有の“間違った用法”を用いつつ 体を起きようと思い諦めた。全身が疲労と二日酔いを訴えている 身体をベッドに横たえ霞がかった頭で考える 昨日は、とにかくふざけた一日だった 学園で、唐突にキモデブに呼び出されたかと思ったら、当の本人があっと言う間に14番表-あの世-逝きだ そこからはラノベも吃驚の超展開…… 依頼は“M”とかいう女たらしのダメ人間の抹殺 そのことに感づいた“M”に群がる女どもが、巣をつつかれた蜂のように襲いかかってきやがった 自らの学舎でおきた惨事に思いをはせつつ、その中で登った“大人の階段”に回想が移るのは本田アキラとて“盛りのついた”高校生である。 多感な青春期ならば致し方ないことであった。 (今日はサボる) 即座に怠惰な結論を建て、二度寝を決め込もうとしたその瞬間 「オハヨゥ、アキラクン」 外人がムリヤリ喋ったような、片言のニホンゴと共にドアが明け放たれる ドアから現れたのは、腰まで届く長いブロンドをたたえた少女だった。 「ハヤァクシナイト、チコク スル ョ」 外人さんが辞書を片手に無理矢理ローマ字で韻を踏んでるような 素っ頓狂な声を出しながら我が家のようにブロンドガールはアキラの部屋を闊歩した。 「ホラ、ハヤクオキル! ハリーハリー」 問答無用で布団を剥ぎ取り── 布団の中で臨戦態勢となっているアキラの愛銃を直視する。 硬直数秒 「Oh!? アキラクンノ、エッチー!!」 意味不明の叫声と共に、本田家に爽快な打撃音が響き渡った *   *   * 宮子=ゴールドマンは我が世の春を謳歌していた。 退屈だった日常から飛び出し、夢を見ていた彼氏との“甘い”生活を送る予定であった。 今のところは、あくまでも“予定”であるが、近日中にそれが確定に変わることは間違いない。少なくとも宮子はそう思っていた  学生カバンの中には、弁当箱が2つ。いつもより1時間早起きをして作ったものであった。 (アキラ君は、いつも遅刻ギリギリに駆けてから、校門近くで待っていよう) そう思い、近くのコンビニでスポーツドリンクを買う 宮子の脳内には独自の世界観が芽生えていた。 そろそろかなと思う矢先── チリンチリン!!! ベルを鳴らしながら暴走自転車が突っ込んで来る 「おはよう、アキラく……」 必死の形相でペダルを漕ぐのは本田アキラ その後ろには、ブロンドのパッツンパッツンガールが荷台に横乗りして肩に手を回している。 デイジー デイジー  ハイと言ってよ おかしくなるくらいに君がすき 馬車のパレードは無理だけど でも変わりに君と自転車二人のりー アメリカの童謡が脳裏に響き渡る中、宮子=ゴールドマンの記憶は曖昧なものとなった (誰、あの女?) 昨日まではあんなことはなかった。 むしろ二人の行く手を阻むのは超ブラコンの妹だった。 「ハヤク!ハヤク! 時間ガナイヨ!  嗚呼、アキラ…… 後二“時”ガ ミエル…!!」 もう時間が無い!! 門限とのケチャップ状態だ 「かったりぃ」 そう言いながらも、アキラはペタルを漕ぐ速度をあげた キンコーーンカンコーーーン ノスタルジックな空気を醸す昭和テイストなチャイムと共に、アキラと“ブロンドガール”は教室に飛び込んだ 「HI! アキラ、ジェシー」 「オハヨ、トム!」 「ッス」 “悪友”トムの爽やかな笑顔が飛び込んだ二人を出迎える トムは全力疾走後の上気した二人を見てニヤリと笑い 「オー!? 今日も同伴出勤デスカァー?  まるで、married couple(夫婦)デスネェ」 と、アメリカンに両手をあげ、これまたアメリカンに笑い出した ペキィ! その瞬間、関節が砕ける音と共にトムと呼ばれたクラスメイトの首が90度回転した 「モゥ、トムったら! 私タチハただの幼なじみなだけヨ」 虎の鉤爪が形に指先を歪めながらジェシーは顔を真っ赤に赤らめた この“幼なじみ”、オープニングの段階で好感度MAXである。 (こ、こはなんぞ──) 一方廊下では―――― 追いかけて来た“時”に捕まり昔なつかしいブリキのバケツを両腕に握らされた宮子が、いまだ現実を認識できずに曖昧な意識のまま過ごしていた。