「阿部さん、聞いてくださいよ! 彼がひどいんです!!」 安っぽい木製のちゃぶ台に両手がついて揺れた 阿部トーチカ 野村学園高等部の用務員だ。 彼自身は一匹狼であるが、『最終妄想動物園』とは同じ仕事をこなした仲でもある。 「ま、三年生っていうのは女に飢えた狼だ」 阿部は“ノンケ”でもホイホイついて行ってしまいそうな薔薇色の視線を宮子に送りながら、 偶然ひっかけた“男の娘”との濃厚なロマンスを再開しだした。 「──お前まだ【童貞】だろ?」 「ちょw」 宮子の顔が瞬間沸騰するのを見て 「アッー!!!い一時を送らせてくれない女は三日で飽きるサ」 「で、でもね。こう初めてって大切じゃない? ねぇ」 「いやいや、今時のカップルは告白して即座に押し倒すのがセオリーさ」 気絶したトリコを畳に寝かしつけ、もろ肌をツナギで覆い隠す。 こう見えても阿部用務員は【恋愛】のプロフェッショナルだ。 ──もっとも彼は男にしか興味は無いが。 「で、その“盛りのついた”彼氏がどうしたって?」 「その“盛りがついた”は余計だと思うけど 今朝、アキラ君に打ち切り前の“テコ入れ”みたいに幼なじみが出来たの」 阿部さんの眉がピクリと動いた 「妙だな」 「妙です。アキラ君は友達が少ないのに」 「いいこと思いついた。お前、リサーチしろ。」 「阿部さんは?」 「情報収集はお前が専門だろ? 彼氏を寝取られても知らないぜ?」 「ちょw寝取りって」 「当世は寝取りはブーム。 大体、幼なじみって記号は、転校生・義妹と並ぶメインヒロイン属性だ。 ヘタレでもホイホイついて行ってしまうのさ」 ゲームの完成系は、ごく少数の“属性”持ちと、多数のサブキャラによって成り立つ。 「ゴールドマン、お前は個性すらないサブキャラで甘んじるつもりか?」 その言葉は、宮子に火をつけた   *  *  * やる気になった宮子はその足で、アキラの義妹の元へ行った。 オンムのその表情が“営業用”であることを確認した後、尋ねた 「ねえオンムちゃん。アキラ君に幼なじみなんていたっけ? しかも、何か色々と間違っているんだけど」 シャキ☆ その瞬間、至近距離から土手っ腹に堅い物が押し付けられる。 オンムの愛銃Cz75、チェコが生み出した名器である。 「兄さんを馴れ馴れしく名前で呼ばないでください☆」 失態である。オンムは兄のためならば良識をぶち破る事など何とも思わぬキ印であることを失念していたのだ。 「愛銃を抜いてください。──銃侠」 積みである。 学園有数のアイドルであるオンムの前で凶器を抜けばに即座に(社会的に)死 密着された至近距離では拳銃をぶちこまれたらこれまた死 加えてこの格闘距離では、誰もオンムが宮子の腹に銃を押し付けているとは気づかない。 「そして、ジェシーお姉ちゃんの悪口を言わないでください」 ゆっくりとトリガーがひかれ── ガキッ にぶい金属音と共に銃の動きが止まった (ジャムった) 宮子は瞬時に理解し、幸運の女神に感謝した。 ──が、オンムは一枚上手であった 「はいこれ?」 「?????」 愛銃を手渡された宮子は頭に???が浮かんだ。 が、その刹那 「きゃあああああ!!!!」 オンムの悲鳴が響き渡る 武器が使いものにならず、奇襲強襲も不可能と悟ったオンムは即座に不利な状況を最大限に利用した。 「なんだなんだ?」 「オンムちゃんの声だぜ」 オンムの叫び声に釣られてトリコ達が集まり出す 彼らがそこで見たは、どうみても“オンムが銃で脅迫されている”光景である 「ウホッ!? フラグktkr!!」 「ムギャオオーー!!!」 意味不明の奇声を叫びながら三下がオンムに襲いかかる オンムの取った行動は【大迷惑】極まりない物であった。 PAN☆ PAN☆ どうやって持ち込んだのか、いや自衛の凶器が当然になっているのか三下はトヨトミピストルを宮子に向けて容赦なくぶっ放した 「いたたたた」 1発が頬を掠めた。 (こいつらは本気で私を殺す気だ) ここはいつから『バトルロワイアル』の世界になったのだろうと夢想しつつ宮子は腹をくくり、自ら制服のスカートを跳ね上げた 「「ウホッ!? いい勝負下着」」 目的は色仕掛けではなく、あくまで太股に括りつけているワルサーPPKを抜くためだ! 本来戦闘服ではない学生服で武器を携行するのは至難の業である。 長さ30cm以上の得物を持ち込むのは不可能に近い とにかく、秘密の花園に未だ見惚けている三下の一人に向けてワルサーを打ち込む 「──みえる!? 俺にも敵の動きがみえるぞ!」 抜き打ちゆえのねらいの甘さか、銃弾はわずかに三下をそれた ライバルが自滅していくこの光景にオンムは至極満足しつつ、 宮子と同じくスカート内に携行しているS&Wチーフスペシャルで止めを刺そうとし── 思い止どまった。 (今は善人の立場を貫いた方がいい) オンムの頭脳は目まぐるしく回転し、トリコを制止すべく声をかけた