昼休み 屋上には“拠点”が築かれていた。 先日、“M”一味と血戦を繰り広げた屋上には、今や我が主とばかりにアキラが居座っていた。 (どうみても危険なのになんで封鎖されないのだろう) 至極普通な疑問を抱きつつ、宮子は弁当を片手に屋上へと向かう。 オンムの協力は得られなかった。が、オンムもあの“幼なじみ”を姉さんと呼ぶほど好意的関係だという確信に近い予想ができた。 “あの”オンムがアキラに自分以外の女性を近づける事自体が異常と考えられる。 「とにかく!あのうさん臭い“幼なじみ”との関係を確かめる!」 当然のことながら、屋上にはピクニックシートが敷かれており、恋人が“幼なじみ”と弁当を食べようとしていた……直前であった。 弁当箱の規格を越えたバスケットに目を投じる。 ・いかにも堅そうなステーキを挟んだサンドイッチ(野菜少なめ) ・フライドポテト ・唐揚というかフライドチキン ・マッシュポテト 付け合わせはピクルスとペットボトルのコーラー 量は3〜4人前はある。はっきり言って食い切れないだろう。 (牛馬を肥やすために桶一杯に餌を盛るのとは訳が違うわよ!?) 宮子の脳内にはモリモリ飼料をはむ牛の横列が浮かんで消えた 対する宮子の弁当── ・三食そぼろごはん(鳥ひき肉・卵・ピーマン) ・ホウレン草とベーコンの炒め物 ・ニンジンのグラッセ ・豚細切れ生姜焼き ・カボチャの砂糖醤油煮(昨日の残り) (これなら勝てる!!!) 宮子は勝利を確信し、拠点へと突撃した 「ねえ、アキラ君。お昼つくってきたんだ☆  一緒に食べよ」 精一杯の笑みを浮かべた先には── 「アキラクン、モットタベテ、イイヨ☆」 顎をひくつかせ、脂汗をかきながら、特定不健康食品の塊に手をつけているアキラの姿であった。 「こ、このステーキ…‥筋張ってるな」 「アキラクンノ コーブツダカラ イツモ、イレテイル ヨ」 「そ、そうか…」 「ホラ、ゴハンツブ ツイテル ヨ」 米飯など一粒もないのに、幼なじみはまるでそれが“シナリオ”に書かれているかのようにアキラの口元についたパンくずをつまんで食した。 ロマンスを仕掛けようとした宮子にとって、この光景はトラウマになる光景であった。 「いやああああああああああああ!!!」 士気は完全崩壊し、弁当箱を放り投げ宮子は校舎へ戻る階段に逃げ込んだ。 「もういや!! 何で私ばかりっっっっっ!!!!!!」 女子トイレで既に欠けたタイルの壁に拳を打ち付けながら宮子は 絶叫した 宮子は元来【弱虫】である。 一旦心が折れれば後は墜ちていくだけである。 「何で何時も、幸せは私の横を擦り抜けて行くんだろう」 目の前の壁には銃痕が数発 幸せが逸れるのは、銃弾が宮子から逸れていく代償なのだろうか? 「いいのかい? ホイホイあの世に逝ってしまって?」 ガタン 突然女子トイレの個室が開き、阿部さんがツナギのチャックを上げながら出てきた 「あ、阿部さん!?」 「−銃侠−宮子=ゴールドマン。お前達、『絶対妄想動物園』は罠にかかったようだな」 「え?」 「銃弾で仕留められないお前達は、思春期特有の“中二ハート”を狙われたってことさ」 「ハート!?」 そういわれればアキラが弁当を食べるその姿は、毒とわかっていても吸い寄せられて逝く中毒患者そのもの (おかしい。アキラ君はどうみても嫌がっていた) 一つ疑問が沸けば、それが突破口になる。そしてもう一つの疑問も 「阿部さん! ここ女子トイレですよ!!!」 「俺は女子トイレでだってアッー!!!いロマンスを繰り広げるような男なんだぜ?」 個室の中には、当然半裸の女子制服を着た男の娘が気絶している。 「じゃあ、あの“幼なじみ”は何者なの!?」 「ソレ、私知ってるヨ!」 バタン 隣の個室が開いて不審な中国人が現れる 「チュンさん!?」 チュンさんはオーサカでは知らぬ者ない、そして望んで会うことはできない神出鬼没の凄腕情報屋だ 「もちろん、ギブアンドテイクよ。」 「は、はぁ」 もう、この二人が女子トイレの個室から出て来たことについてはどうでもよくなってきた 「私が欲しいのは、学食で一日10個限定の焼きそばパンね」 「あのーチュンさん。そんなのコ○ビニ行けば売ってますよ」 ダン!!! 安っぽい木製壁に拳が打ち付けられしなった。 「アナタ、ロマンを理解で来てないネ!?  友達から“空気の読めない子”と言われてないカ!? ゲームにおいて、焼きそばパンは伝説の昼食! これ、常識ヨ」 「佐用で──」 たかがパン1個で情報がもらえるなら── その考えが、新米カルマ持ちの甘さだった *  *  * ハァハァ 荒い息とボロボロの制服で宮子はショットガンを杖に指定された屋上に到着した。 「だから言っただろ。チュンさんが安い代価を出すわけないって」 自慢のマグナムを作業着の中に収め阿部さんはニヒルに笑った 「いやいや、ありえないわよ!  なんで、焼きそばパンの為に血戦が始まるのよ!」 焼きそばパンは残り1個であった。それをかけてなぜか血戦が始まったのだ 「素直にライフル使えばよかったろうに」 「ふざけないでよ、あんな近距離で狙撃銃用いるなんてナンセンスよ」 「やれやれ、これだから-銃侠-ってやつは困るんだ。そうやって変なプライド持つから【童貞】喪失の危機に陥るんじゃないか」 宮子+阿部と男子生徒タッグ最後の二人になった時、 「お互いにタイマンでやりあわないか?」 という提案が向こうから起きた。 決闘を断るのは銃侠の恥とばかりにホイホイついて言った宮子は、銃捌きでは勝ち目がないと悟った男子生徒に強引に“押し倒され”かけたのだった。 幸いにして男子生徒も【童貞】だったようで全精神をつぎ込んでも宮子のシャツを破くのが限界で、真っ白に燃尽き、貞操の危機を脱したのであった。 ※なお、もう一人の男子生徒は同じくタイマンを挑んだ阿部さんがおいしく頂きました。 「待ちくたびれたヨ。ゴールドマンサン これが彼女が“幼なじみ”でない揺るがない証拠ネ」 チュンさんが指さした先には、無残に踏み潰された宮子の弁当があった 「“幼なじみ”は優しさの象徴ネ。 “病み”属性が付加されない限り、恋敵であっても妨害をしないのが鉄則ヨ」 「成る程。こいつは動かない証拠だな」 阿部さんが神妙に頷きつつ、鑑識官のように写真をとり、ビニール袋に踏み潰された弁当を収めた (zokusei?) 宮子にとっては、二人の会話は見知らぬ外国に放り込まれ、現地人の井戸端会議に参加させられた感覚だ 「これ、“幼なじみ属性”の演技をしていることを自ら証明したネ」 「油断大敵ってやつだな」 「ソ。恋敵の邪魔をするのは“幼なじみ属性”の風上にもおけないヨ。 “病み”と“幼なじみ”の相性の善さは認めるけどネ 属性は付ければいいってもんじゃないヨ!」 (YAMI?) もはや理解の範疇を越えた宮子は自分の世界に話題を引き戻した 「じゃ、じゃあ“幼なじみ”は何者なのですか!?」 弁当を踏み潰された事よりも、属性だか鉄則だか意味不明な用語の羅列に宮子は当座の問題が関係すればそれでいいと開き直った。 「あなた、本当に空気読めない人ネ。いつか苦労するヨ」 チュンさんはため息をつき── 「あの女は、“カゲロウ”ジェシー。 『正当なる日本』有数のクノイチにして変装の達人ネ」 「“カゲロウ”──聞いたことあるな。  齢50を越えて衰えぬ美貌を保ち色事の達人とか」 「知ってるのか!!! 阿部サン!?」 「ああ、奴はバスルームでの戦闘を最も得意とするらしい」 「流石阿部さんね。私そこまで調べ上げるとは思わなかったヨ」 (ちょ、ちょっとまってよ!? あれ、50代なの?  そして私は50代に負けたの!?) 宮子がショックを受けている横で阿部さんとチュンさんの会話は続く 「でも、気を付けるネ! 彼には“イガノ”トムというバディがいるよ 『愛国戦隊ニンジャスリー』は、第二クールで視聴率テコ入れのために『愛国戦隊 シノビバトラーV』に改名する予定だったヨ そのための補充人員がジェシーとトムね」 (第二クール? 視聴率??) 「え、えと。とにかく敵は『正当なる日本』なのね?」 一度渡り合ったあいつらは、とにかく間違っていて、常識が通じない奴らだった。 「ま、ぶっちゃければそうね。 仲間をピチューン☆された“アダウチ”らしいヨ。 『正当なる日本』では、親しい者が殺された際は“アダウチ”を成すまでムラハチブにされるそうね」 「ブシドーってやつか?」 (村八分は意味が違うと思うけど──) 奴らに常識は通用しない。が、最後の一点の疑問が解けない 「でも、本田兄妹がどうして『正当なる日本』に籠絡されたの?」 チュンさんは神妙な表情に変わった。 「そう“カゲロウ”ジェシーは【恋愛】の達人ね  二人はトリコにされて、“幼なじみ”という設定になるようにお願いされているのよ」 「ウホッ、敵はノンケも食っちゃうような女か!?」 「これ、無抵抗の仲間にショットガンをぶちこんだ貴方への復讐ね!宮子=ゴールドマン!  奴らは“お約束”に則り、貴方から彼氏を寝取って屈辱を与えた上で皆殺しにするつもりよ」 「ちょっとまってよ!私達だって仲間を殺されたのよ!」 「奴らにそんな理屈は通じないね。  奴らは“お約束”に則り、今晩の花火大会でムードを上げてアキラを“押し倒す”つもりね」 「浴衣+幼なじみの黄金律だな。 どんなヘタレや中二病でもホイホイトイレについていきそうだ」 「奴らを止めるには、花火大会で迎え撃つしかないネ」 (そこでなんで、トイレなんだろう……) 『正当なる日本』との最終決戦は今夜、花火大会で行われる 打ち上げられる花火は誰のための送り火となるのだろうか?