花火大会会場 そこには、完全武装の男女がそろっていた。 ──いろんな意味で、だ。 「うははっははっは!! お前、何浴衣着て来てるの!!」 「うるさいっ!!」 腹かかえて笑っている阿部さんを宮子は一括した 「べ、別に好きで着てきたわけじゃないんだから!」 「何、お前──ツンデレ属性で対抗するのか?」 (負けられない。50歳のおbsanなんかに、負けられない!) (宮子の銃口はやや熱いか) 宮子の心境を読んだ阿部は危険だと感じた 「勝って本田兄妹を救い出すわよ!」 「ヘイヘイ」 そういいつつ、通りかかった浴衣の美少年をトリコにすることを忘れない阿部さんだった。 *  *  * 一方そのころ 「お嬢ちゃん。二度とくるなよ」 「お世話になりました」 オンムは窃盗がみつかり今まで豚箱に放り込まれていた。 調子に乗って、高額品を窃盗しようとしたオンムは警察に逮捕されてしまったのだ。 (RPGにまで手を出したのが間違いでした、兄さん) オンムは心の中で悪態をつき、“今まで”窃盗に成功した獲物を回収しに アジトにもどった。 (このAUGで、兄さんに纏わり付くハエを一掃します) オンムの背景が宇宙に変わり、瞳の内で一粒の種が割れた。 *  *  * ドドーーン パパパパパパ 夜空を打ち上げ花火が彩る 土手の上で極彩色の浴衣に身を包んだジェシーとアキラは並んで花火を眺めていた。 「oh! FANTASTIC!」 「そうだな」 花火の雰囲気に紛れてジェシーはそっとアキラに肩を寄せた。 「昔ハ小サカッタアキラ君の肩 コンナニ “益荒男” ラシクナッタ」 情熱的な香水と汗が交ざった香りと浴衣に収まり切らない膨らみに さすがのアキラもゴクリと喉が鳴った 「ワタシ、アキラ君ト ズート一緒ニイレタラ ソレデ ヨカタ」 ジェシーは上目使いにアキラを見上げた ドパーン 花火が1発 打ち上がって消えた 「ワタシ達ネ チイサイトキ コノバショデ約束シタヨ」 (小さい時に約束?) これこそ、偉業“爆裂娘々”と称された者のみが使うことが許される奥義:誘い受けである。 本来、自分からしか仕掛けることができないロマンスを、相手から自分に使わせる妖しの技 恋人とは比翼の連理、一方がトリコなだけでは成り立たない しかし── (俺が小さい時って…… こいつ軽く30歳位だよな?) 失態である。流石に設定だけではリアル年の差は越えられなかった。 加えてアキラの好みは、「同じ年頃の知的な女性」であり“フェロモンを撒き散らすような”ジェシーとは掛け離れていた アキラに告白させることはできなかった。 (シット、ナラバ──) ジェシーは自らの色香に惑わぬ男がいたことに驚きつつ、難易度は高まることを覚悟で切り札をきった  「二人、此処デ  オオキクナッタラ アキラト“ケッコン”スルッテ  GODニ カシコミカシコミ タテマツッタヨ!!  ──ワタシ、アキラダケノモノニナリタイ ヨ!!」 豊満すぎるバストを押し付け、零れ出る真紅の“勝負下着” アキラの意識はそこで飛んだ *  *  * 花火会場の脇にある雑木林 樹液に誘われる昆虫達のように二人は無言のまま立ち入った。 ガサリ 草をかき分け奥に進んだ先は── 「悪いな、今、使用中だ」 ニヒルに笑みを浮かべながら阿部さんは浴衣がはだけまくった “男の娘”を木立に押し付け濃厚なロマンスを再開しだした 「お、お前!?」 「俺は雑木林の中でだってアッー!!!いロマンスをするような男なんだぜ」 恍惚の笑みを浮かべ動けなくなった“男の娘”を横たえつつ 阿部さんはどす黒く光る巨大なマグナムをゆっくりとツナギから抜き放った 「殺らないか? “カゲロウ”ジェシー」 「なっ!」 突然隠し通していたはずの正体を曝され、おどろいたジェシーは一歩後ずさった むにゅ 後づさった先で踏み付けた何かに二度驚く 「ランチボックス!?」 「己が業に慢心した証拠さ。 完璧な“幼なじみ”の設定を演じるなら、そこは恋敵に塩を送るのがテンプレートだぜ」 阿部さんは、ジェシーの設定の“矛盾”をついた 「そして、ある幼なじみ評論家が言っていたぜ?  『幼なじみと結ばれるのは、主人公の部屋である』ってな  ──お前は、アキラをトリコにする目先の利益を優先して、日本の心“MOE”を捨てたのさ “MOE”ない幼なじみに価値はあるか?」 「オーー マイ ガーーーーーッ!!!」 ジェシーは天を仰いで絶叫した。 『正当なる日本』は我こそが日本のハートを貫いていると自負する盟約 その一員が利益を優先して日本のハート“MOE”を捨て去っていたのだ。 「聞いてアキラ君!  ──幼なじみは最初からいなかったの!」 藍に染め上げた浴衣を身にまとい、死神の大鎌を彷彿とさせる狙撃銃を手に宮子は奥から現れた。 「じゃあ、俺のそばにいたのは──誰なんだ」 虚ろな瞳でアキラは宮子に問いかける 決意を胸に秘め、宮子は残酷な現実を告げた 「──幻想なの」 「わああああああああああっ!!!」 “幼なじみなんて居ない” 残酷な現実と向かい合ったアキラは絶叫した (神様、どうか力を貸さないでください  物語の決着は自分の手で──) 宮子は祈らなかった。だが心から思った 自分だけを見てほしいと 「だから私がいるよ。絆、ここにあるよ」 吼えるアキラをゆっくりと抱き締めた 本来ならば人前でイチャイチャスル事が許されないアキラが 無言で宮子に抱き着いた 「オーーーー ノーーー!? NTRれたヨー」 「ふざけないで! 寝取ったのは貴方でしょ!」 宮子は、木陰に転がり込みながらSIG"BLAZER R93-LRS"に初弾を押し込んだ! シャコン 無機質な機械音が林内に響いた (オー ピンチヨ) 敵は、愛銃をもって偉業を成した宮子=ゴールドマン この森林は樹木が遮蔽となってジェシーの“ニンポー”をことごとく邪魔をする 対する宮子にとって遮蔽物はむしろ有利に働く 「ジェシーおねえさーーん」 向こうから草履のなる音 AUGを手に白地に朝顔柄の浴衣を着たオンムがこっちにやって着た (Oh! ラッキー) オンムと姉妹同然という設定はまだ解けていない。 「アキラクンガ 別ノ子ト“フラグ” タテカケテルヨ!」 「それは大変です!」 「アノ“ビッチ”カラ アキラクンヲ トリカエソウ!」 オンムはAUGを手に項垂れた。 敬愛する兄が他の女に心を許したことがショックなのだとジェシーは思った もう一押しお願いすればいけるはずだ 「う〜ん。 このままノッていけば最高のシナリオだと思ったんですけど──」 「オンムチャン?」 「ごめんねジェシーお姉ちゃん。  兄さんからもらってお姉ちゃんにあげる予定だったガチャガチャの指輪……‥ 最初から渡すつまりは無かったんです」 「!?」 「指輪はあげられないけど──」 満面の笑みを浮かべオンムはAUGをジェシーに向けてフルオートで1マガジン分を打ち込んだ ッタタタタタタッタタタタタ!!!! 軽快な機械音が雑木林に響き渡る 全身を血に染めながらジェシーは下手くそなダンスを踊って地面と熱いキスをする! 「オノレ ウラギッタナ!」 「──自分を殺すのも大変ですよね。“ジェシーさん”」 薄ら笑いを浮かべながら敗者を見下ろすオンム オンムはトリコになっていたのではなく、今までトリコになったフリしていたのだ。 オンムの中ではその方が都合が善かったのだろう。 その左手の薬指には“アキラからもらった”オモチャの指輪が収まっていた