「「ガトツ! ZERO−STYLEッ!」」 機先を制したのはトム 「あっ!!」 タックルからのボディブローを食い宮子は吹っ飛んだ (イタイイタイイタイ) 腹部が形容できないほどに痛い。これは間違いなく内蔵がやられた 痛みと同時に、死の恐怖が宮子に襲いかかり 子犬のようにただ震えるばかり 宮子のモラルは崩壊した 「死ねよ!」 「オー、蚊が刺したようね」 アキラの拳は鋼のように凝縮したトムの筋肉に阻まれた 「アキラ、覚エテオクトイイヨ  主人公ノ友人ポジは万能属性持ちネ!」  「下手な鉄砲数うちゃ当たる」 そんな言葉があるが、その言葉は真実である。どんな子供でも銃を持ち、ちゃんと狙って当てれば凄腕の戦士だって殺せる。 素人だって、武器と頭数をそろえればプロと十分やり合えるのだ しかし、ルールを区切った正面からの白兵戦──特に徒手空拳でのガチンコはそうはいかない。 極端な例を挙げれば、「子供が本気で殴っても大人は全く痛くない」。格闘技の有段者に数人で挑みかかっても、最初の一合で有象無象の士気が崩壊する。 格闘戦は専門の習練が有るか否かそれで勝負が決まる実にヒロイックな世界なのだ 故に、亜侠の大半は格闘戦を好まないし、逆に格闘戦に特化した亜侠は銃火を潜ってでも敵に肉薄しようとする 格闘戦に向かない『絶対妄想動物園』にとって、開けた場所での格闘戦は絶対に選んではいけない選択だったのだ トムとジェシーが放った【俺が法律だ】の一言に逆らえなかった時、ゲームは“積んで”いたのだ 「フタエノキワミ! アーーーッ!!!!」 「おいおい、俺をCCOと勘違いして無いか?」 ジェシーの渾身の突撃を、阿部さんはかじろうとして回避した この中でまともに格闘戦を嗜んで居るのは阿部さんだけだったのだ (なんで、私が生身でマッチョメーンと殴り合わないといけないんだろう) 宮子は立ち上がろうとして、どうでもいいことを考えて機を逸した そもそも素手で殴りあおうぜ?といわれてホイホイ武器を捨てる馬鹿はハリウッド映画のヒーロー位だ。 『正当なる日本』が聖典にして居る“葉隠”においても 「武士とは、どのように不利な状況においても“それが自分の万全な状況”なのだ」と言い訳や譲歩をすることを許して居ない つまるところ、自分たちは“間違った”ニッポンかぶれのアメリカン達の口車に乗ってしまって自ら土壇場に歩いて逝ったんだ (ばかだよ、私達が馬鹿だったんだ) 涙がこぼれた (エキストラがキャストに敵うはずが無いんだ) 自分は人外魔境のスタイリッシュな世界に今居るのだと ジェシーの攻撃を躱した阿部さんは死線にいた。 無防備のままトムの間合いに誘い込まれていたのだ! 「シークレットソード2ぅ!   グレーーーン! カイナーァ!!!」 「イ゛グゥゥゥ!!!」 (おいおい、いきなりTWOかよ? ONEはどうした?) と思いながら、阿部さんがふっとび昏倒した みしり さらにトムの筋肉が脈動し、右腕を左腕で引っ張り極限まで “しなり”を与えた 「シークレットソード……アルティメット──  シュゥゥゥティィング・スタァァァァ 」 左掌の鞘に収められ、極限にまで練られた右腕が命を散らす流れ星と化そうとした瞬間 ドォォォォン!! トムとジェシーは背後からの衝撃波に吹っ飛んだ 硝煙の先から現れたのは、腹にシリケンを突き立てたままのオンムであった。 「フロリダ産の“パイナップル”。  もう一個有ってよかったですね?兄さん」 「オンム、おまえ──」 本来なら、どさくさに紛れて“泥棒猫”を一掃し、その後消沈する兄さんを優しく慰めるための道具であったがそこまでの余裕は無かった。側のジェシーが動かない物と化した事を確認し、呆れた表情でいった。 「なんで、皆素手で闘って居るのですか?   原哲雄マンガじゃないんですよ?」 気絶して居たオンムは唯一、トムの“サムライハート”の精神汚染を免れて居たのだった 「サノバ○゛ッチ!!!!! ユーアー・クレイジーガール!」 既に間違った日本語を話す余裕がないトムは焼けただれた体に鞭打って起き上がり突撃した 「ファイナル・シークレットソード! カグツチィィィ」 「うわっと」 オンムは根性でトムの拳を回避し、オンムの瞳の中に宇宙があふれた 袖口からデリンジャーが掌に滑り降り── ドドーーン 夜空には見事な枝垂れ柳が描かれ──消えて逝った