初期情報『眠れぬモノへの子守歌』

 
 『TMS(月代・メディカル・サポーツ)』社の、本日の株価………
 
DAKのニュースが、今日の株価情報を伝えている。
(――おかしい)
窓一つ無い、“棺桶”のようなオフィスで、【エグゼク】と思しき壮年が呟いた。
男の名は、月代一馬[つきしろ・かずま]。『TMS』という、零細医療サービス会社の取締役社長である。
(――――余りにも、不自然だ)
『TMS』は、製薬と血液バンクを主要業務とする医療系企業である。
新進気鋭とはいえ、従業員100人未満の吹けば飛ぶような子会社である。その株価 が、鰻登りに上昇している。これは、どうみても不自然である。
(“仕手戦”……か? まさかな)
仕手戦とは、株式用語である。
金に物を言わせて、狙いを定めた企業の株の40%以上を買い漁り、時期をおいて一気に売却する。株価は急激に下落 しその企業は大打撃を被る。
投資家が一度は試みたいと夢想し、資本と株屋の誇りに阻まれ行うことが出来ない………株業界の鬼手である。
 仮にそうだとしたら、『TMS』は何者かに狙われているということになる。
「…………一馬様。」
室内には、秘書と思しき女性がいた。創られたかのような完璧な造形美の女性である。
「エリザ[−]。このことは、めぐみ……いや、会長の耳には入れないように」
「畏まりました」
エリザと呼ばれた秘書は、慇懃に一礼した。
 
*    *    *
 
「……現行の『TMS』社の株価が急上昇しているようですね」
トーキョーN◎VAに住む者ならば、子供も知っている『千早重工』の社長室。
その千早重工を統べる若き獅子:千早雅之[ちはや・まさゆき]が、 腹心の秘書に状況の説明を求める。
「『TMS』が新商品を開発したとは聞いておりませんが?」
秘書の回答を待つまでもなく、質問を続ける。
「早急に、調査を……っ!」
「『TMS』に関しては、倉敷次長に一任しています。 それより、次長をここに呼んでください」
『TMS』は、一年前に取締役内のゴタゴタがあり、『千早重工』が調停に乗り出した縁がある。
無論、慈善事業というわけではない。他者が全く見 向きもしなかった、自然物を原料とする医療品。
いわば“災厄”で途絶えてしまった古の秘薬を精製できる『TMS』に恩を売り、商品の独占契約を結ぶという 作戦であった。
これによりライバルである『イワサキ』に医療品部門と対抗することが可能となった。
 倉敷次長、フルネーム:倉敷恭也[くらしき・きょうや]は『TMS』内紛の際に、会社の特命大使として『TMS』の内紛を収め、
営業3部薬事 課主任から、特進し同部次長に就任。『TMS』との連絡役を兼ねている。
「お呼びでしょうか、社長」
倉敷恭也41歳。企業人としては脂ののりきった現場叩き上げの敏腕家である。
「『TMS』株価の異常成長については、次長もご存知だと思います。」
「………事前調査は行いましたが、成果不十分につき報告いたしませんでした。
 詳細が必要ならば、改めて、『TMS』社内部と投資家層の調査の許可をいただきたく存じます」
「その件に関しては、あなたの自由になさってください。……成果を期待いたしますよ」
「ご期待に添うように、鋭意努力いたします」
千早雅之の言をうけ、倉敷の瞳が鈍く光った。
 
*    *    *
 
「めぐみ〜〜。また、明日ねぇ〜☆」
「はい、また明日☆」
『TMS』会長、月代めぐみ[つきしろ・−]の本職は高校生である。彼女が会社の取締役であることは、
周知のことであるが、誰も特別扱いはしない。ここ新星帝都大学付属清和学園は、そういった自由がウリの学園である。 
本人も、そういった特別扱 いは好まない。登下校も、警備の関係上、秘書のエリザが車で送迎するが、数キロ離れたところで待機させている。
今日は、業務が忙しいのであろうか……車はまだ見えていない。
「たまには、一人で帰るのもいいわよね」
そういって、駐輪場から自分のエアロバイクを取り出す。このエアロバイクは、(執務からの)逃走用に用意してあるものだ。
無人の駐輪場に、クレッド・クリスを差し込み、バイクを取り出した刹那……、黒い影が
めぐみに襲いかかった!
「!!!!!!!!!!!!」
 
……ゴトリ
 
何かが落ちる音とともに、めぐみは地に伏した。目の前には、自分の右足が転がっている。
「……こいつが、<始祖>か?」
「さあな。依頼主からもらった画像とは一致してるぜ」
「まあ、深いことは触れない方がお互いのためだよな」
襲撃者(カゲ)は二人組のようだ。
 
『警告! 片足損失、出血多量につき、放置すれば生死に関わる危険あり!』
 
めぐみにインストールされた、生命維持ユニット“ヘルスゲージ”が警告を発する。
「――お嬢様っ!!!」
爆音をあげた、“ステイヤーMk−2”が駐車場に突っ込んだ。
 
*    *    *
 
「ここは? …月代の館」
だいぶん時間が過ぎた後、めぐみは寝台で目を覚ます。
「お嬢様を、“理解のない”医者にお見せするわけにはいけませんから……」
ボロボロになった女性用“ジェントリー”を着たままのエリザが答える。破れた袖から見える腕は、戦闘用全身義体のものであった。
「……あの、カゲは?」
「音便に済ませたいところでしたが、お嬢様の力を見られましたので、やむなく……」
「…そう。とにかく、N◎VAへ戻りましょう。ここにいると、他の長老がうるさいから」
寝台から、起きあがっためぐみは、傷一つ無い姿であった。
(お嬢様は、漫然と滅び行く〈一族〉に新たな風を呼び込む希望の星。
…………たとえ、私の体が鉄屑となっても守り抜いて見せます)
エリザは、心の中で誓った。
 
 
 人の欲望と、強い意志…その力によって“運命の扉”は開かれようとしている……。
 
 
TOKYO N◎VA-D to Play.By.E-mail
Act_Tittle....『眠れぬモノへの子守歌』
 
 
 
■初回アクション
・00−01:『TMS』に関わる
・00−02:株価急上昇に関わる
・00−03:倉敷恭也に接触する
・00−04:月代めぐみに接触する
 
※当初期情報に記載されているすべての用語・単語・会話の内容は、納得いく理由(経緯)を記載すれば自由に利用してかまいません。
※アクションには「動機」「目的」「手段」を明記してください。欠落部分があると、判定が不利となります。
※自分の希望する導入(オープニング)があれば明記して下さい。出来得る限り参考といたします。


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